退職代行を使う前に知っておくこと
- 弁護士でない業者ができるのは、本人の退職の意思を会社に伝えることまで。有給休暇や未払い残業代の交渉は弁護士法72条の問題になり得る
- 交渉が必要になりそうなら、最初から弁護士に相談する。伝えるだけで足りるなら、自分で退職届を出す方法もある
- 代行を使っても、退職届・貸与品の返却・書類の受け取りは自分の手続きとして残る
退職代行でできることは運営者で変わる
退職代行は、本人に代わって会社に退職の意思を伝えるサービスです。運営者は大きく3つに分かれ、できる範囲が違います。
| 運営者 | 退職の意思を伝える | 有給休暇・退職日・未払い賃金などの交渉 | 訴訟・労働審判の代理 |
|---|---|---|---|
| 弁護士(法律事務所) | できる | できる | できる |
| 労働組合 | できる | 団体交渉として行うとされる | できない |
| 上記以外の会社 | 本人の意思をそのまま伝える範囲 | 報酬を得て行うと弁護士法72条の問題になり得る | できない |
依頼先を選ぶ前に、自分のケースで交渉が必要になりそうかを先に考えます。退職日や有給休暇に会社が異議を出しそうな場合、未払いの残業代がある場合は、交渉ができる相手でないと途中で止まります。
弁護士法72条と「非弁行為」
弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件について代理や和解などの法律事務を取り扱うこと、またはその周旋をすることを業とすることを禁じています。違反すると、同法77条により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象になります。
退職代行に当てはめると、次のように整理されています。
- 本人の「退職します」という意思をそのまま伝える(使者として伝える)だけなら、法律事務の代理にはあたらないと考えられている
- 退職日の調整、有給休暇の消化、未払い賃金や残業代の支払いなどを会社と交渉することは、法律事務にあたり得る
兵庫県弁護士会のくらしの法律相談(2026年9月時点で確認)は、弁護士でない業者が退職日の決定や有給休暇の消化、給与の支払いなどを会社と交渉することは弁護士法違反になり得ると説明しています。
また、東京弁護士会は2025年10月22日、退職代行の運営会社に弁護士法違反の疑いで強制捜査が行われたことを受けて注意喚起を出しています。そこでは、残業代や有給休暇などは法律的な問題であり、業者が会社と交渉すること、お金を受け取って法律問題の処理を他者に斡旋することが問題になり得ると説明されています。
利用者の側から見ると、業者が法律上できない交渉に踏み込めば、会社が応じない、途中で対応が止まるといった形で、結果として本人が不利益を受けるおそれがあります。
使う前に考えたいリスク
兵庫県弁護士会の上記ページでは、弁護士でない業者を使った場合に次のような事態が起こり得るとしています。
- 会社が業者からの連絡に応じず、本人に直接連絡してくる
- 本人が連絡に応じないと無断欠勤として扱われ、懲戒処分や損害賠償の話に発展するおそれがある
退職代行を使うかどうかにかかわらず、退職日までの出勤や休暇の扱いがはっきりしないまま連絡を絶つのは避けます。退職の意思表示の効果は、期間の定めのない雇用なら民法627条1項で、申入れの日から2週間を経過すると雇用が終了すると定められています。
代行を使わずに済む方法
上司に直接言い出せない理由によって、取れる手段が変わります。
- 言い出しにくいだけ:退職届を上司の上長や人事に提出する、内容証明郵便で送る(退職届と退職願の違いと書き方)
- 強い引き止めや脅しがある:やり取りを記録し、厚生労働省の総合労働相談コーナーに相談する(予約不要・無料)。引き止めへの返し方は退職の引き止めへの対応
- 未払い賃金などの請求がある:弁護士に相談する
兵庫県弁護士会の上記ページでは、弁護士が内容証明郵便で退職を通知する方法もあり、紛争になった場合も一貫して対応できる点が挙げられています。
依頼する前の確認項目
退職代行に依頼すると決めた場合は、申し込む前に次の点を運営者に確認します。
- 運営者は弁護士・労働組合・それ以外のどれか(事務所名、組合名、登録番号などを確認)
- 退職日や有給休暇の調整、未払い賃金の請求まで対応できるか、できない場合はどうなるか
- 費用の総額と、追加費用が発生する条件
- 会社が本人への直接連絡を求めた場合の対応
- 退職届の作成・送付、貸与品の返却方法について案内があるか
「弁護士監修」という表示は、運営者が弁護士であることを意味しません。交渉まで任せたいなら、依頼の相手方が弁護士本人(法律事務所)であるかを確認します。
代行を使っても自分でやること
退職代行は会社との連絡を代わりに担うだけで、退職の手続きそのものは本人に残ります。
- 退職届の提出(出社しない場合は郵送)
- 社員証、パソコン、制服などの貸与品の返却
- 離職票、源泉徴収票などの書類の受け取りと確認(退職時に受け取る書類・返す物)
- 健康保険・年金の切り替え手続き
受け取る書類の送付先住所を会社に正しく伝えてもらうことも、依頼時に確認しておきます。
次にやること
- 自分のケースで、退職日・有給休暇・未払い賃金の交渉が必要かを書き出す
- 交渉が必要なら弁護士に、脅しや強い引き止めがあるなら総合労働相談コーナーに先に相談する
- 退職代行に依頼する場合は、運営者の種類と対応範囲・費用を書面で確認する
- 貸与品の一覧と返送方法、書類の送付先住所をまとめておく